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課題
解決手段
概要
背景
概要
外的な選択圧のない条件下においても多コピーで安定に保持されるベクター系の提供。
酵母キラー毒素産生形質を導入した酵母を宿主細胞とし、増殖させようとするプラスミドに前記毒素に対する耐性因子をコードするDNA配列を挿入し、このプラスミドを前記宿主細胞に導入した後、前記毒素の産生及び前記耐性因子を発現させる条件下で酵母の培養を行う。
目的
本発明は、外的な選択圧のない条件下においても多コピーで安定に保持されるベクター系の構築を目的とする。
効果
実績
- 技術文献被引用数
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(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
酵母中でプラスミドを安定に増殖させる方法であって、酵母キラー毒素産生形質を導入した酵母を宿主細胞とし、増殖させようとするプラスミドに前記毒素に対する耐性因子をコードするDNA配列を挿入し、このプラスミドを前記宿主細胞に導入した後、前記毒素の産生及び前記耐性因子を発現させる条件下で酵母の培養を行うことを特徴とするプラスミド増殖方法。
請求項2
請求項3
プラスミドがYEp型酵母ベクターである請求項2に記載のプラスミド増殖方法。
請求項4
プラスミドがYEp51である請求項3に記載のプラスミド増殖方法。
請求項5
請求項6
宿主酵母がサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)である請求項5に記載のプラスミド増殖方法。
請求項7
請求項8
酵母キラー毒素及び耐性因子が、クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する線状プラスミドpGKL1の異なるオープンリーディングフレーム(ORF)によりそれぞれコードされるものである請求項7に記載のプラスミド増殖方法。
請求項9
請求項10
クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する酵母キラー毒素をコードするDNA配列をサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)B511-4Cの染色体に組み込んだ形質転換体。
請求項11
クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する酵母キラー毒素耐性因子をコードするDNA配列を挿入したYEp型酵母ベクター。
技術分野
0002
発現ベクターの持つべき重要な特性は、宿主細胞中での安定な増殖と高コピー数の維持であり、外的な選択圧のない条件下においても、ほとんど、もしくは、すべての細胞中に高コピーで維持されることが理想的である。従来、酵母ベクターに関しては、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)を中心に種々のタイプのものが開発されてきた。YIp型ベクターはpBR322等の大腸菌ベクターに酵母のマーカー遺伝子を付加したものである。しかし、これは染色体に組み込まれるインテグレーションベクターであり、自立増殖はできない。そこで、サッカロミセス・セレヴィシエの潜在性プラスミドである2μDNAの複製起点をYIpに挿入したYEp型ベクターが開発され、酵母を利用した物質生産に用いられている。このYEp型ベクターは高コピー数が得られ、栄養要求性等を利用した選択圧下では比較的安定である。しかし、選択圧のない条件下では非常に不安定ですぐに消失してしまう。ベクターにセントロメアを挿入することによって安定に維持させることはできるが、コピー数は低くなる。
発明が解決しようとする課題
0004
本発明者らは上記課題の解決手段を鋭意検討した結果、酵母のキラー形質の利用が上記課題解決に有効であることを見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のプラスミド増殖方法、並びにこの方法に用いられる形質転換体及び酵母ベクターを提供する。
(1) 酵母中でプラスミドを安定に増殖させる方法であって、酵母キラー毒素産生形質を導入した酵母を宿主細胞とし、増殖させようとするプラスミドに前記毒素に対する耐性因子をコードするDNA配列を挿入し、このプラスミドを前記宿主細胞に導入した後、前記毒素の産生及び前記耐性因子を発現させる条件下で酵母の培養を行うことを特徴とするプラスミド増殖方法。
(2) プラスミドが多コピー型酵母ベクターである前記1に記載のプラスミド増殖方法。
(3) プラスミドがYEp型酵母ベクターである前記2に記載のプラスミド増殖方法。
(4) プラスミドがYEp51である前記3に記載のプラスミド増殖方法。
0005
(5)宿主酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母である前記1乃至4のいずれかに記載のプラスミド増殖方法。
(6) 宿主酵母がサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)である前記5に記載のプラスミド増殖方法。
(7) 酵母キラー毒素産生形質がクルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来するものである前記1乃至6のいずれかに記載のプラスミド増殖方法。
(8) 酵母キラー毒素及び耐性因子が、クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する線状プラスミドpGKL1の異なるオープンリーディングフレーム(ORF)によりそれぞれコードされるものである前記7に記載のプラスミド増殖方法。
(9)栄養要求性による選択圧をかけずにプラスミドの増殖を行う前記1乃至8のいずれかに記載のプラスミド増殖方法。
(10) クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する酵母キラー毒素をコードするDNA配列をサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)B511-4Cの染色体に組み込んだ形質転換体。
(11) クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する酵母キラー毒素耐性因子をコードするDNA配列を挿入したYEp型酵母ベクター。
0006
本発明方法の概要
図1に模式的に示す通り、本発明のプラスミド増殖方法では、宿主細胞である酵母1の染色体DNA2に酵母キラー毒素をコードするDNA配列3及びプロモーター4を導入し形質転換体5を調製する。一方、プラスミド6に前記毒素に対する耐性因子をコードするDNA配列7及び必要ならばプロモーター(図には示していない。)を挿入し、組換えプラスミド8を調製する。しかる後、形質転換体5に組替えプラスミド8を導入し、プロモーター4の誘導により毒素9及び耐毒性因子10の産生を開始させて酵母の培養を行う。一般に、酵母細胞においてプラスミドは核内で複製維持されるが、酵母が出芽する際に娘細胞にうまく分配されない。このため、栄養要求性などによって選択圧を加えない条件下では、プラスミドを保持しない細胞が増殖し、プラスミドが安定に保持されない。しかし、本発明の方法によれば、組換えプラスミド8を保持している細胞11は生育できるが、プラスミド8を保持していない細胞12は酵母キラー毒素9のために生育できなくなる。このように、外部から栄養条件等により選択圧をかけるのではなく、宿主自体によって選択圧をかけることによりプラスミドを安定保持することが可能となる。
0007
以下、本発明の方法を構成する各要素について詳細に説明する。
(1)酵母キラー毒素
本発明における酵母キラー毒素は遺伝子産物である限り特に限定されないが、キラー酵母から得られ異種酵母に対しても効果を有する毒素が好ましい。このような酵母キラー毒素としては、例えば、クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来する酵母キラー毒素が挙げられる。キラー酵母であるクルイヴェロミセス・ラクティスは、上記の毒素に関し2種の線状DNAプラスミドpGKL1とpGKL2を有している。これらは、通常1対となって細胞あたり50〜100の多コピーで細胞質中に局在している。pGKL1(8874bp)は毒素タンパク質を分泌生産し、多種の酵母を殺し、宿主自体は毒素耐性であるというキラー形質を宿主細胞に付与する。一方、pGKL2(13457bp)は自己及びpGKL1の複製維持に重要な遺伝情報を有している(図2)。クルイヴェロミセス・ラクティスの産生するキラー毒素タンパク質は、α、β及びγの3つのサブユニットから構成されており、α及びβサブユニットはPGKL1-ORF2に、γサブユニットはORF4にコードされている。このうち毒素の中心的役割を果たすのはγサブユニットで、キラー毒素のコア要素である。これに対し、α及びβサブユニットはγタンパク質の分泌に重要な役割を果たすとともに、キラー作用にも必要な補助成分である。このORF2が欠損するとγタンパク質は細胞内に蓄積する。
0008
(2)毒素耐性因子
一般にキラー酵母はキラー毒素とともにこれに対する耐性因子を産生する。したがって、キラー酵母の有する酵母キラー毒素を利用する場合は、当該キラー酵母自体が有する耐性因子遺伝子を利用することが可能である。例えば、上記のクルイヴェロミセス・ラクティスでは、毒素耐性因子はpGKL1-ORF3にコードされており、本発明においてもこれを用いることができる。
0009
(3)酵母キラー形質の導入
宿主細胞に毒素産生形質を導入する方法は特に限定されないが、毒素産生をコードするDNA配列を染色体中に組み込む(インテグレーション)方法を採ることが好ましい。かかる方法を採ることにより本発明の効果をより確実なものとすることができる。インテグレーションの実行には、例えば、キラー毒素のコア要素であるpGKL1-ORF4を、非選択圧下においても安定に保持されるYIp型プラスミドを用いて、染色体上に挿入する。同時にプロモーターも導入する。プロモーターとしては、例えば、ガラクトースのような糖に誘導されるタイプが好適であるが、これに限定されるものではない。なお、本発明の方法で用いることのできる宿主細胞は、酵母キラー毒素に対する感受性を有し、プラスミドの複製に適したものであればよい。このような酵母の例としては、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)のようなサッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母が挙げられる。
0010
(4)プラスミド
本発明において増殖されるプラスミドは、酵母において発現ベクターとして機能するものであれば特に限定されないが、多コピーベクターであるYEp型ベクターが有用である。酵母キラー毒性耐性因子をコードするDNA配列(例えば、pGKL1-ORF3)のプラスミドへの挿入は既知の組換えベクター製造法にしたがって行うことができる。プロモーターは前記(3)と同様である。かくして得られた組換えプラスミドは常法にしたがい酵母内に導入される。
0011
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
(1)キラー・プラスミドの抽出
以下の操作手順により、クルイヴェロミセス・ラクティスに由来するpGKL1プラスミドを抽出した。なお、下記の例ではクルイヴェロミセス・ラクティスそのものではなく、pGKL1プラスミドを有するキラー酵母サッカロミセス・セレヴィシエF102-2を用いたが、クルイヴェロミセス・ラクティスあるいはその他のpGKLプラスミドを有するキラー酵母を用いてもよい。例えば、クルイヴェロミセス・ラクティス(Kluyvermyces lactis)ATCC8585株を用いても同様に調製できる。
0012
キラー酵母サッカロミセス・セレヴィシエF102-2(Saccharomyces cerevisiaeF102-2)を4mlのYPD液体培地で一晩前培養を行い、翌日100mlのYPD液体培地で本培養を行った。約8〜10時間本培養を行った後、250mlの遠心チューブで集菌(3000rpm/5min)し、菌体を冷滅菌水で2回洗浄した。菌体を10mlのザイモリエイス前処理液に懸濁し、30分間ゆるやかに振とうした。集菌し、20mlのザイモリエイス溶液を加え懸濁し、40mlの遠心チューブに移し、30℃で30〜90分間おだやかに反応させた。遠心してスフェロプラストを集め、0.5mlのリシス用溶液を加えおだやかに懸濁した。65℃で15分間放置した後、5M酢酸カリウム溶液を2ml加え、氷中に30分以上放置した。遠心(15000rpm/10min)後、上清を新しい遠心チューブに移し、上清の2.5倍量の冷100%エタノールを加えた結果、線状になったDNAをピペットチップでからめてとり、新しいエッペンドルフチューブに移した。高速遠心(15000rpm/3min)後、上清を捨て、集めたDNAを70%エタノールでリンスした。DNAを乾燥させ、適量のTE溶液に溶解した。抽出したDNAを完全に溶解した後、アガロースゲル電気泳動を行い、pGKL1プラスミドの確認を行った。
0013
なお、上記の操作において用いた試薬の詳細は以下の通りである。
(a)YPD培地:
1%酵母エキス、
2%ポリペプトン、
2%デキストロース。
(b)ザイモリエイス(zymolyase)前処理液:
1Mソルビトール、
50mMリン酸カリウム(pH7.5)、
14mM β−メルカプトエタノール(ナカライテスク社製)。
(c)ザイモリエイス(zymolyase)溶液:
1M ソルビトール、
50mM リン酸カリウム(pH7.5)、
14mM β−メルカプトエタノール、
100〜400μg/ml zymolyase 2OT(生化学工業)。
(d)リシス(lysis)用溶液:
50mMEDTA、
10% SDS。
(e)TE溶液:
10mM Tris−HCl(pH8.0)、
1mM EDTA(pH8.0)。
0014
(2)PCRによるpKGL1-ORF3及びORF4の増幅
キラー毒素のγサブユニットであるORF4とキラー毒素の耐性因子をコードしているORF3を取得するため、抽出したpGKLプラスミドを鋳型としてPCRを行った。プライマーのデザイン及び、PCRの反応条件は以下の通りである。
(a)pGKL1-ORF3(キラー毒素耐性因子)
5′ XXXGTC GAC AAA ATGTGTTTA GAA TTA GAT 3′
5′ XXX GGA TCC AAG ATG AAG AAA ACT ATG ATT 3′
(b)pGKL1-ORF4(キラー毒素)
5′ XXX GTC GAC ATG AAG ATATATCATATATTTA 3′
5′ XXX GGA TCC TTA TAC ACA TTT TCC ATT CT 3′
XXX は任意の塩基配列を表す。なお、GTC GACは、Sal Iによる認識切断部位、GGA TCC はBam HIによる認識切断部位である。
(c)反応条件
メインサイクル(30サイクル)
94℃ 30秒間、
45℃ 1分間、
72℃ 1分間。
最終伸張(final extension)
72℃ 10分間。
0015
(3)pKGL1-ORF3のYEpプラスミドへの挿入(図3)
(2)で得られたpKGL1-ORF3PCR産物は、制限酵素Sal I及びBamH Iで消化した。多コピー型ベクターであるYEp51も同様に制限酵素Sal I及びBamH Iで消化し、これらのサンプルをT4DNAリガーゼ(東洋紡社製)で16℃、一晩、リゲーション反応を行った。リゲーション反応を行ったサンプルを用いて、大腸菌XL1-blue competent cell(STRATAGENE社製造)をエレクトロポレーションにより形質転換し、40μg/μlアンピシリンを含むLB培地(プレート)で37℃一晩インキュベ−トした。これら形質転換株をアンピシリンを含むLB培地(液体)で37℃一晩インキュベ−トし、アルカリSDS法により、プラスミド抽出を行い、制限酵素Sal I及びBamH Iで消化した。アガロースゲル電気泳動を行い、目的のPCR産物(Sal I-BamH I断片)を含んでいるYEp51を取得した(YEp51-R3)。なお、ここで用いたLB培地は以下のものである。
LB培地:
0.5%酵母エキス、
1%トリプトン、
1%塩化ナトリウム。
(プレートの場合はさらに2%寒天)
0016
(4)pKGL1-ORF4導入用組換えプラスミドの構築
(2)で得られたpKGL1-ORF4PCR産物を多コピー型ベクターであるYEp51に挿入し、組換えプラスミドYEp51-T4を得た。操作手順は上記(3)と同様である(図3)。次に、YEp51-T4をEcoRIで消化し、ガラクトース誘導性のGAL10プロモータ−とORF4のPCR産物を含む断片を下記と同様にジーン・クリーン・キットによりアガロースゲルより抽出精製した。このEcoRI断片をpBluescript II(東洋紡社製)のEcoRIサイトに挿入した(図4)。一方、YCpHIS4をSal I及びBam HIで消化し、TAEバッファ−0.8%アガロースゲルにおいて電気泳動を行い、エチジウムブロマイドにて染色した後トランスイルミネーター上にてHIS4遺伝子を含むSal I、Bam HI及びSal Iの2つの断片をジーン・クリーン・キット(GENE CLEANKIT(BIO101社製))により添付のプロトコルにしたがって抽出精製した。まず、Sal I-Bam HI断片を酵母の染色体組み込み型ベクターであるYIp5のSal I-Bam HIサイトに挿入した。つぎに、Sal I-Bam HI断片を挿入したYIp5をSal Iで消化し、ジーン・クリーン・キットにより精製したSal I断片を挿入し、HIS4遺伝子を含むYIp5を構築した。前述のGAL10プロモータ−及びORF4を含むpBluescript IIプラスミドをBam HIで消化し、これをHIS4遺伝子を含むYIp5のBam HIサイトに挿入しYIpHR4を構築した(図5)。
0017
なお、YCpHIS4 は、HIS4遺伝子を導入するために用いたものであり、下記の例で宿主酵母として用いたS.cerevisiae B511-4Cのヒスチジン要求性を相補するためのものである。また、ここで用いた電気泳動用のTAEバッファ−は詳しくは以下のものである。
TAEバッファー:
0.04M Tris、
0.04M酢酸、
0.001MEDTA。
(電気泳動ゲルはこのバッファ−に0.8%アガロースを含む。)
0018
(5)YIpHR4によるS.cerevisiae B511-4Cの形質転換(図6)
YIpHR4を大腸菌より抽出し、制限酵素ApaI(URA3遺伝子内に存在する)で一晩インキュベートした。S.cerevisiae B511-4Cを4ml YPD液体培地で30℃一晩振とう培養行った。次に、100ml YPD液体培地に1ml接種し、30℃で対数増殖期後期まで約8〜10時間振とう培養を行った。250mlの遠心チューブで集菌(3000rpm/5min)し、菌体を冷滅菌水で2回洗浄した。1Mソルビトールで洗浄した後、0.1mlの1Mソルビトールに懸濁した。懸濁液50μlをエッペンドルフチューブに移し、10μgのApalで消化、線状化したYIpHR4を加え、氷中5分放置した。セルに移してエレクトロポレーションをかけた後、素早く氷冷した1Mソルビトールを加え、懸濁した。細胞懸濁液は集菌(8000rpm/1min)し、すべての細胞を選択用のプレート培地であるSD(Leu,Ade,Thr)プレートにまき30℃で3日間培養した。
0019
なお、ここで用いた酵母及び培地は詳しくは以下のものである。
(a)サッカロミセス・セレヴィシエ(S.cerevisiae)B511-4C
遺伝子型:Matα/Matα,leu2/leu2,ade1/ade1,thr4/thr4,his4/his4
キラー酵母感受性:あり
ガラクトース資化能:あり
なお、本酵母は、平成9年2月3日付で工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-16055として寄託されている。
(b)SD(Leu,Ade,Thr)プレート:
0.67%イーストニトロジェンベース(w/oアミノ酸)、
2%グルコース、
40μg/mlアデニン、
60μg/ml L−ロイシン、
200μg/ml L−スレオニン。
0020
(6)B511-4C形質転換体の表現型の確認
YIpHR4の形質転換により選択プレートに増殖してきたコロニーを、SDプレート培地の炭素源をグルコースからガラクトースに変換したSGalプレート培地に滅菌したつまようじでレプリカし、30℃で3日間培養した。培養後増殖できなかった株を選択し次の操作に用いた。このようにして得られたB511-4CのYIpHR4による形質転換体は、Saccharomycescerevisiae B511-4C(YIpHR4)と命名され、平成9年2月3日付で工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-16056として寄託されている。なお、ここで用いたSGal培地は詳しくは以下のものである。
SGalプレート培地:
0.67%イーストニトロジェンベース(w/oアミノ酸)、
2% ガラクトース、
40μg/mlアデニン、
60μg/ml L−ロイシン、
200μg/ml L−スレオニン。
0021
(7)YIpHR4によるB511-4C形質転換体へのYEp51-R3の導入(図7)
YIpHR4で形質転換したB511-4C(FERM P-16056)をYEp51-R3でエレクトロポレーション法によりさらに形質転換を行った。方法は上記の通りである。形質転換後、SD(Ade,Thr)プレート培地にまき、30℃で3日間培養した。増殖してきたコロニーを先程と同様にSGal(Ade,Thr)プレートでその増殖について検討を行った。増殖してきたコロニーを選択し、YIpHR4およびYEp51-R3が導入されたB511-4Cを得た。このようにして得られた形質転換体は、Saccharomyces cerevisiae B511-4C(YIpHR4,YEp51-R3)と命名され、平成9年2月3日付で工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-16057として寄託されている。次に得られた形質転換体について、非選択圧下でのYEp51-R3の安定化について検討を行った。なお、ここで用いたSD培地及びSGal培地は詳しくは以下のものである。
(a)SD(Ade,Thr)プレート:
0.67%イーストニトロジェンベース(w/oアミノ酸)、
2%グルコース、
40μg/mlアデニン、
200μg/ml L−スレオニン。
(b)SGal(Ade,Thr)プレート:
0.67% イーストニトロジェンベース(w/oアミノ酸)、
2%ガラクトース、
40μg/ml アデニン、
200μg/ml L−スレオニン。
0022
(8)YEp51-R3の安定化の検討
YIpHR4およびYEp51-R3を導入したB511-4C(FERM P-16057)を4ml YPGal液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。この操作を5回繰り返した。植え継ぎは40μlを新たな4ml YPGal液体培地に接種し、振とう培養を繰り返した。新たな培地に接種する際に、培養液をYPGalプレート培地上にコロニーアイソレーションし、50コロニーについてSD(Ade,Thr)プレート培地での増殖能について調べた。50コロニー中、生育できたコロニー数よりプラスミド保持率を%で算出した。コントロールはB511-4Cの染色体上にYIpHR4を導入していない株をYEp51-R3で形質転換したものであり、4ml YPGal液体培地で同様に継代培養を行い、その安定性について調べた。結果を図8に示す。毒素産生形質に加えて耐性因子をコードする遺伝子を有する組換えプラスミドを導入した株は選択プレートにおいて全ての細胞が増殖しており、プラスミドが安定に保持されている。これに対し、組換えプラスミドを含まないコントロールは継代培養を繰り返していくうちに選択プレートにおいて増殖できる株が徐々に減少しておりプラスミドが脱落していることがわかる。なお、ここで用いたYPGal培地は詳しくは以下のものである。
YPGal
1%酵母エキス(yeast extract)
2%ポリペプトン
2%ガラクトース
(寒天2%)
以上のようにS.cerevisiae B511-4CにYIpHR4およびYEp51-R3が組み込まれた形質転換体は、プラスミド上のマーカー遺伝子によって相捕されるアミノ酸を培地成分から除去したり、抗生物質の添加など、外的の選択圧のない条件下においてもプラスミドYEp51-R3を安定に維持するので、YEp51-R3の制限酵素サイト、例えばBcl I、Xba I、Ava I、Hpa Iに有用遺伝子を組み込めば、選択圧のかけられない天然物質などを培地として利用して、アルコール生産に用いたり、外的な選択圧のない条件下において高頻度で安定に有用遺伝子を発現することが可能になる。
発明の効果
0023
本発明によれば、毒性耐性因子を保持している細胞は生育できるが、保持していない細胞は酵母キラー毒素のために生育できなくなる。すなわち、外部から栄養条件等により選択圧をかけるのではなく、宿主自体によって選択圧をかけることによりプラスミドを安定保持することが可能となる。植物を原料としたビール、パン、蒸留酒、ワインなどの製造工程において頻繁に用いられている酵母S.cerevisiaeはデンプンやβ−グルカン、セルロースのような植物多糖を発酵可能な糖にまで分解することができないが、これらに対する分解酵素をコードする遺伝子を酵母に導入することにより、バイオマスの有効利用及び伝統的な生物工学的プロセスの改良と新しいプロセスの開発につながる。このためには遺伝子導入のために用いるプラスミドを酵母中に安定に保持させる必要があるが、植物原料から特定のアミノ酸を選択的に除去すること、つまり、栄養成分による選択は不可能である。また有用物質の大量生産を行う場合においても、抗生物質の添加あるいは栄養条件により選択圧をかけるには大量のコストが必要となる。本発明のプラスミド増殖方法は、宿主自体によって選択圧をかけるものであって、資源の有効利用及び有用物質生産に有効な手段を提供したものである。
図面の簡単な説明
0024
図1本発明の方法の概略を示した説明図。
図2プラミスドpGKL1及びpGKL2上でのオープンリーディングフレームの配置図。
図3プラミスドYEp51にpGKL1-ORF3及びpGKL1-ORF4を導入する方法の概略を示した説明図。
図4pBluescript IIにGAL10プロモータ−とpGKL1-ORF4導入する方法の概略を示した説明図。
図5酵母の形質転換用プラミスドYIPHR4の構築する方法の概略を示した説明図。
図6YIpHR4によるS.cerevisiae B511-4Cの形質転換を模式的に示した説明図。
図7図6に示したYIpHR4によるB511-4C形質転換体へのYEp51-R3の導入の態様を模式的に示した説明図。
図8本発明による酵母キラー毒素産生因子を含む形質転換体と含まない形質転換体とでのプラスミド保持率を比較したグラフ。
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0025
1酵母
2染色体
3毒素をコードするDNA配列
4プロモーター
5形質転換体
7 毒素耐性因子をコードするDNA配列
8プラスミド
9 酵母キラー毒素
10 酵母キラー毒素耐性因子
11 生育可能な酵母細胞
12生育不能な酵母細胞
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