脳インプラント・ニューロコンピュータ

老化による脳機能低下の克服

最終更新日:2016/06/29

推定市場規模
約10兆円

 脳は、古来より生命活動を支える重要な器官であると認識されていた。しかし、脳全体では1000億個を超える細胞や脳神経が複雑なネットワークを構成しているため、その活動と思考や感情あるいは行動との関係は長い間神秘のベールに包まれていた。
 近年、MRI等の脳計測システムの発展に伴って、工学的なアプローチにより、脳と機械またはコンピュータを結びつけるデバイスや技術に関する研究が盛んになってきた。
 自然発生的な脳を、人為的に拡張・強化する技術の実用化により、脳機能障害の回復のみならず、従来の思考や感情を拡張した新しい体験をもたらすことが期待されており、経済産業省の発表によると2035年には今の6倍となる約10兆円の国内市場規模になる分野といわれている。

未来への変化の兆し

  • 脳機能の障害を回復する

     脳幹出血や筋萎縮性側索硬化症(ALS)等を患った人は脳が損傷を受けることで手足を思い通りに動かすことが困難となる。
     大阪大学等ではこうした患者向けに低侵襲型の出力型BMI(ブレインマシンインターフェース)の研究を進めている。この研究が実用化すれば患者が実行したい行動をイメージするだけでロボットアームやパソコンのカーソルを動かせるようになり、脳機能の障害を克服することが可能になると期待されている。

     ノースカロライナ州にあるデューク大学の神経科学者であるMiguel Nicolelis教授らの研究によるBMIの「考えるだけで機器操作を可能にする」実証が2002年に発表された。
     これは実験用ラットに「レバーを押せば水が飲める操作」を学習させたのち、脳内刺入型針電極経由で脳信号を検出しレバー操作を制御することにより「レバーを押すことを考えるだけで水飲み操作を可能」にした。
     つまり前足で操作していたレバーをBMIにより補助させることで、脳内で考えることで操作するというプロセスを実現させたのである。

     今後は動物実験から人間の臨床研究を行う計画であり、BMIが実用化されれば脳の損傷により動かせなくなった肢体をコンピュータ制御によって代替することが可能になるだろう。 脳機能の障害を回復する
  • 脳機能を強化する

     脳へ情報を直接インプット・アウトプットする手段の研究が進んでおり、脳の記憶力や情報処理能力を強化する手法として注目を浴びている。
     また精神状態を脳波として自覚することで、自分の心拍などを制御できるようにするバイオフィードバックの研究や、思考するだけで外部の自動車やロボットを操作する手法も研究されており脳機能の強化・拡張への挑戦が活発化しつつある。

     大阪大学や慶応義塾大学での研究では、脳波の信号強度変化を計測し運動想起時のパターンを識別し制御することで、インターネット上の3D仮想世界にいるキャラクターを非侵襲型のBMIで操作することに成功している。
     一方侵襲型でのBMI研究では徐々にワイヤレス装置の実用化に向けた取り組みが進んでおり、非拘束で長時間の大量データを計測可能にすることで従来の脳内情報処理研究の現場に新しい展開をもたらすと期待されている。

     こうしたBMI技術が実用化されれば、例えば車椅子を利用する患者が手動ではなく脳内で考えるだけで車椅子の操縦ができるようになるのを始めとして。遠隔の者同士で言葉を交わさず通信するテレパシーや思い浮かべたイメージを画像に焼き付ける念写や意志の力だけで物体を動かすテレキネシス(念動)にも似た力を得られると考えられている。 脳機能を強化する
  • アルツハイマーの治療

     「認知症有病率等調査」によると、アルツハイマー病(Alzheimer's disease,AD)は、認知症の60%以上を占め平成22年時点で日本では約439万人が認知症に罹患しており(アルツハイマー患者は約250万人と推計)、軽度認知障害を持つ人も含めるとその数は約819万人になるといわれている。
     アルツハイマー病は認知症患者の半数以上を占める疾患で、高齢化が進む現代社会ではその克服が大きな課題の1つとなっている。しかしながら、現状では有効な治療薬・予防薬が少なく、その開発が強く望まれている。

     理化学研究所(理研)を中心とした共同グループは、バイセクト糖鎖と呼ばれる糖鎖がアルツハイマー病を進行させることを2015年1月に発表した。
     アルツハイマー病の原因は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドが脳に蓄積することにあると考えられているが、Aβが蓄積していくメカニズムに多くの不明点が残されている。そこで、共同グループは脳に豊富に存在するバイセクト糖鎖に注目した。
     バイセクト糖鎖を作る酵素「GnT-III」を欠損させたマウスを用い、脳内のAβの蓄積を調べたところ、バイセクト糖鎖を持たないマウスではAβの蓄積が激減し、記憶能力の低下も抑えられることが判明した。共同研究グループは、BACE1がバイセクト糖鎖を持っていること、また、バイセクト糖鎖を欠損させるとBACE1がAβの前駆体タンパク質(APP)と細胞内で異なる分布を示すようになり、その結果Aβの産生を抑制できることを突き止めた。

     現在、国内外の製薬会社がBACE1阻害剤開発を進めておりこのBACE1は阻害剤が副作用を持つ可能性が指摘されている。 共同研究グループは現在、GnT-IIIの阻害効果を持つ化合物を大規模探索(ハイスループットスクリーニング)によって探索する研究を進めており、糖鎖をターゲットにした新しいアルツハイマー病の治療薬候補の開発が期待されている。 アルツハイマーの治療
  • 脳への刺激による治療

     腰痛治療などでは、既に脊柱の正しい位置へワイヤ状のインプラントを埋め込み、電流を流すことで痛みを除去するという手法が確立されている。
     これと同じアプローチとして有望視されているのが「脳深部刺激療法」「皮質刺激療法」と呼ばれる治療法だ。

     脳深部刺激刺療法は、何らかの原因で信号の伝達がうまくできなくなり発作を起こしたり、精神的に落ち込んだりしてしまう神経回路にインプラントを通して電気信号を流すことで、人為的に脳神経の伝達をコントロールするという治療法である。
     特にパーキンソン病やジストニア(筋失調症)といった難病治療の分野で有望視されており、多くの研究はごく初期段階ではあるが、すでに世界中で約10万人が脳に外科的にワイヤを注入する神経移植治療を行っている。

     一方外科手術を行わない方法として、頭皮から大脳にパルス刺激を送る「経頭蓋磁気刺激法」があり、体を傷つけることなく脳内のニューロンを興奮させるため、頭痛・脳梗塞・パーキンソン病・ジストニア・耳鳴りや精神医学的な症状のうつ病や幻聴にも有効な治療法であるとされている。

     現在、精神医学的な症状の改善には投薬や、カフェインなどの摂取といった手法が用いられているが、脳への刺激による治療が確立されることで、現在難病とされているような症状の改善に繋がるとして注目を集めている。 脳への刺激による治療
  • サイボーグ兵士の研究を脳機能障害に役立てる

     米国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(以下、DARPA)は、人間の脳細胞とコンピューターを接続する研究に取り組んでいる。
     
     これまでも脳と機会を接続する研究は進んでいたが、新たに設置された「脳科学技術システムデザイン(NESD)」の研究プログラムでは、一度に接続できる脳細胞の数を従来の数万個単位から数百万個単位へと飛躍的に増加させることを目指している。
     最終的には、1立方センチメートルよりも小さい脳に埋め込める大きさのチップを製造することを目標としているが、実現には脳科学、生物工学、省電力技術、医療機器などの各分野で画期的なイノベーションが必要だ。

     これまでもDARPAが軍事用に開発され、その後民間転用された技術には、インターネットやGPS、音声通訳システムなど今日現在社会に大きなインパクトを与えており、NESDの研究プログラムは米国が推進する脳機能障害を治療する研究の一環でもある。 サイボーグ兵士の研究を脳機能障害に役立てる

現在集まっている公募課題

  • あなたもastamuseに課題を掲載してみませんか?
    astamuseには月間150万人の技術者がサイトを訪れています。

    astamuseに課題掲載しませんか? あなたの技術的な課題に応えられる技術者がastamuseにはいるかもしれません。 技術分野問わず、未来につながる技術課題をastamuseに掲載してみませんか?

    課題掲載について問い合わせる

本ページに掲載されている公募案件については時点での内容を掲載しております。
各公募内容における報酬や条件、詳細につきましては各リンク先に記載されている内容を
ご確認頂けますようよろしくお願いいたします。

この課題を解決するために共有する

「老化による脳機能低下の克服」に関連する未来の課題